広島地方裁判所 昭和39年(行ウ)21号 判決 1971年5月13日
第二一号事件原告 株式会社広島タクシー
第三八号事件原告 有限会社ときわタクシー
被告 広島東税務署長
訴訟代理人 古館清吾 外五名
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用中、原告株式会社広島タクシーと被告との間に生じた部分は原告株式会社広島タクシーの、原告有限会社ときわタクシーと被告との間に生じた部分は原告有限会社ときわタクシーのそれぞれ負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、原告株式会社広島タクシー(第二一号事件関係)
(一) 被告が原告に対し昭和三九年六月二九日付でなした同三六年四月一日より同三七年三月三一日までの事業年度分法人税について総所得金額七七、五三一、〇五九円とした再更正処分のうち金五四、二六二、五九一円を越える部分はこれを取消す。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
二、原告有限会社ときわタクシー(第三八号事件関係)
(一) 被告が原告に対し昭和三九年六月二九日付でなした同三六年四月一日より同三七年三月三一日までの事業年度分法人税について、総所得金額を金一九、九六四、七一二円とする更正処分はこれを取消す。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
三、被告(第二一号事件、第三八号事件共通)
主文同旨
第二一号事件関係(原告株式会社広島タクシー)
第一、原告の主張(請求の原因)
一、原告株式会社広島タクシーは自動車による旅客運送を業とする会社である。
被告は昭和三六年四月一日より昭和三七年三月三一日までの事業年度(以下本件事業年度という)の原告の青色申告に対し、昭和三八年六月二九日付で総所得金額を金五四、九九二、九〇六円と更正し、さらに同三九年六月二九日総所得金額を金七七、五三一、〇五九円と再更正し、同年七月一日その旨原告に通知した。
二、右再更正処分について原告は同三九年七月三〇日広島国税局長に対し審査請求をしたが、同年一〇月二二日付をもつて棄却され、その頃原告に通知された。
三、ところで原告の本件事業年度における総所得金額は金五四、二六二、五九一円であるから再更正処分のうち右を越える部分は違法であるから取消を求める。
第二、請求の原因に対する被告の答弁及び被告の主張
請求の原因第一、第二項の事実を認める。
原告は本件事業年度において別表一の通りの所得を得ており、再更正処分に何等の違法も存しない。
別表一につき詳説すれば、
(一) 別表一の(二)(9)について、
原告は第三八号事件原告有限会社ときわタクシーに対し昭和三七年一月八日無償でタクシー二六車輛分の営業権を譲渡した。ところで原告は昭和三六年三月一〇日右ときわタクシーの社員から出資持分を譲り受けその経営権を掌握するに至つたが、右ときわタクシーは認可台数一一輛で経費が割高で営業不振であつたので、車輛を増加すれば、営業成績が上昇することは明らかであつたし、一方原告は多額の所得が生じていたから所得に全額課税されているのに対し、ときわタクシーは赤字で、欠損金額を補填するまで課税されないという事情の下に、前記贈与が行なわれたものであるから、被告は昭和三五年ないし三七年の広島市における売買実例を参考にして一台当りの営業権の時価を金一〇〇万円に評価し、譲渡総額を金二、六〇〇万円としこれを原告からときわタクシーに対する旧法人税法九条三項にいう寄付金と認定し、同法施行規則七条一項により損金算入限度(この算定については別紙二)を越える額金二五、一一八、四六八円の損金算入を否認した。
(二) 別表一の(二)(2)について
右欄の金五、三二六、二一二円のうち金一五〇万円は後記(三)のとおり損金として認定した一台分の営業権の譲受価額金二〇〇万円の減価償却費であるから損金計算を否認したものである。
(三) 別表一の(三)(4)について
原告がときわタクシーへ贈与した二六台分の営業権のうちには本件事業年度内に訴外有限会社幟中央タクシーから取得した一台(取得価額金二〇〇万円)が含まれているもの(新規増車割当一九七台、右幟中央タクシーからの取得台数六台であつたから26台×197/203=25台で一台を右幟中央タクシーから取得したものをときわタクシーに譲渡したと認められる。)として一台分の価額金二〇〇万円を減算したものである。
第三、被告の主張に対する原告の答弁
別表一科目欄(二)のうち(2)(9)、(三)のうち(4)及び(四)の各金額は否認しその余の金額はすべて認める。認否の詳細は以下のとおりである。
(一) 別表一、(二)の(9)について
原告がタクシー二六車輛を減車し、同台数がときわタクシーに増車されたことは認めるが、それは当時広島市牛田周辺地区のタクシーの需給関係調整のための広島陸運局の強い行政指導を拒み得ず、公共的事業の性格上からもやむなく、採算上有利でないときわタクシー(牛田地区に営業所を有する)への増車、原告の減車という措置に応じたもので、取引上譲渡、譲受の観念を入れる余地はなく、課税の対象とされるべきではない。
(二) 別表一(二)の(2)について
金五、三二六、二一二円のうち金五、一七六、二一二円について認めその余を否認する。
(三) 別表一(三)の(4)について
譲渡時における原告の認可台数が二〇三台であつたこと、そのうち訴外幟中央タクシーから取得した車輛が六台あることを認め、その余の計算関係は争う。
第三八号事件関係(原告有限会社ときわタクシー)
第一、原告の主張(請求の原因)
一、原告ときわタクシーは旅客運送を業とする有限会社であるところ、被告は昭和三六年四月一日から同三七年三月三一日までの事業年度(以下本件事業年度という)の原告の法人税について同三九年六月二九日付で右年度の所得金額を金一九、九六四、七一二円と更正し、その頃原告に通知した。これに対し原告は同三九年九月五日審査請求をなしたが、同年一〇月二二日棄却されその頃原告に通知された。
二、しかるに原告の本件事業年度における所得は存せず、欠損が生じた状態であつたから、被告の更正処分は違法であり、取消を求める。
第二、請求の原因に対する被告の答弁及び主張
一、請求の原因第一項の事実はすべて認める。
原告は本件事業年度において別表三のとおり所得があつたもので被告の処分は適法である。
なお別表三の(二)(4)は前記第二一号事件原告株式会社広島タクシーの請求の原因に対する答弁として述べた如く、昭和三七年一月八日原告広島タクシーから二六台分の営業権(時価二六〇〇万円)の無償譲渡を受けたので減価償却をしたうえ益金として加算したものである。
第三、被告の主張に対する原告の答弁
一、別表三のうち(二)(4)及び(四)を否認し、その余の金額を認める。
二六車輛の増車は認めるが、贈与されたものではなく、第二一号事件原告広島タクシー主張の如く、陸運当局の強い行政指導に基くものであつて譲渡の観念の入る余地のないもので課税対象とされるべきものではない。
第四、証拠関係(第二一号事件、第三八号事件共通)<省略>
理由
一、第二一号事件(原告株式会社広島タクシー)
(一) 原告株式会社広島タクシー(以下原告広島タクシーという)が自動車による旅客運送を業とするものであること、被告は原告広島タクシーに対し昭和三九年六月二九日付で原告広島タクシーの本件事業年度における、法人税につき総所得金額を金七七、五三一、〇五九円と再更正処分をなし、同年七月一日原告広島タクシーに通知したこと及び、右再更正処分につき原告広島タクシーが同三九年七月三〇日広島国税局長に対し審査請求をなし、右請求は同年一〇月二二日付で棄却されたことは当事者間に争いがない。
(二) 原告広島タクシーの主張する本件事業年度の総所得金額と被告の主張するそれとの差は要するに後記第三八号事件原告有限会社ときわタクシー(以下原告ときわタクシーという)に対しタクシー二六車輛分の営業権を無償譲渡したか否かにかかるものであるからこの点につきまず判断する。
成立に争いのない乙第一号証、第二号証の一、二、第三号証、第四号証、第五号証の一、二、第六号証、第七号証を総合すると、昭和三六年一二月二三日原告広島タクシーは取締役会において昭和三七年一月八日に臨時株主総会を開催し原告ときわタクシーに対し営業の一部譲渡をなすことを決議するよう準備し、一方昭和三七年一月九日原告ときわタクシー臨時社員総会において原告広島タクシーより二六車輛分を増車の手続を経て譲受する旨決定されたこと、同年一月一〇日付で両会社よりそれぞれ二六車輛の増減車の事業計画変更認可申請書が広島県知事に提出され、同年二月五日広島陸運局の審査を経て同知事により両申請はいずれも認可され結局タクシー二六台分の営業権が譲渡される形式がとられたことがそれぞれ認められその他右認定に反する証拠はない。
(三) 成立に争いのない乙第八号証の二、証人川村亀良の証言を総合すれば昭和三五年から昭和三七年ごろ広島市内においてタクシーの営業権の価額(すなわちタクシーの増車が陸運行政上厳しく制限されているため、比較的認可を受けやすいとされていた既存の業者の保有する認可台数を一部譲り受け、売主側の減車申請、買主側の増車申請の両手続によつて前記陸運行政上の規制を逃れる際の権利譲渡価格)は、タクシー一台あたり約八〇万円から二〇〇万円であつたこと、及び本件にもつとも近接した昭和三七年四月の広島市内でのタクシー一一台分の営業権の売買実例は一台一〇〇万円相当であつたことがそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。
(四) 成立に争いのない甲第一号証、第二号証の一ないし三、第四号証、第一二号証の一ないし三、第一三号証の一、二、乙第二号証の一、二、第五号証の一、二及び前記証人川村亀良、同長谷川良夫、同若槻虎雄、同福永正美、同石塚宇吉の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告広島タクシーから原告ときわタクシーへのタクシー二六車輛分の営業権の譲渡は表面上、広島市の周辺部にあたる牛田地区に営業所を有していた原告ときわタクシーの営業強化並びに赤字経営中の同原告の増車による経営合理化を企図するにあるとされているが、実質上の理由は昭和三五年七月八日及び昭和三六年一一月二〇日の二回にわたり広島陸運局の諮問機関である広島陸運局自動車運送協議会が広島市内のタクシー営業のあり方について特に広島市周辺部の輸送需要の充足をはかるため、タクシーの供給増加及びいわゆる車庫待営業の強化を答申したこと、特に周辺部のなかで牛田地区は昭和三六年一〇月ごろ人口約一三、〇〇〇名に対し、タクシー営業所二、車輛三という実情で著るしく供給不足の状態であり、利用者から強い不満が陸運当局に対し出されていたこと、ところが当時陸運当局としては、容易にタクシー総数全体の増車を認め難い諸般の実情であつたので、既存業者の中でも最大の保有台数を有していた原告広島タクシーを減車し、右減車台数に相当する台数を同原告が経営権を掌握し、かつ牛田地区に営業所を有していた原告ときわタクシーに増車するという方法によりタクシー総数を増すことなく需給調整を計ることが一応当面の打開策として採り上げられたが、しかし利益の少ない周辺部の車庫待ち営業にタクシーを移すことは原告広島タクシーとしても容易に受け入れがたい状況であつたところから、当時の広島陸運局長が原告広島タクシー代表者を説得し、その協力を求めた結果原告らはその要請に応じ、前記(二)の申請がなされるに至つたことの各事実が認められる。右認定に反する乙第七号証は前記各証拠に照らし措信できない。その他右認定を覆す証拠はない。
(五) 以上認定した事実を総合すれば、原告ら主張の如く陸運当局の強い行政指導のもとに本件タクシー二六台分の営業権の譲渡が行なわれたことがうかがえられないではなく、かつ右の如き事情の下での財産権の移転に課税することは酷であるかの如くであるが、現実には二六台分の営業権の無償譲渡が行政当局との種々の接渉を経たのち結局、行政指導を受け入れ、原告広島タクシーと原告ときわタクシーの自主的申請という形式をとつて行なわれたことは否定し難く、してみれば本件営業権の譲渡が、両原告の意思を無視して陸運局の専断のもとに行なわれたとまでは言い切れないし、又前記(三)認定の如く営業権と称するものに現実に財産的価値が附与されている以上、これを寄付金として課税した被告の本件処分は違法とは断じ得ない。
右処分のうち営業権価格の評価を一台当たり金一〇〇万円としたことも前記(三)認定の売買実例に照らし相当と認められる。
二、第三八号事件(原告ときわタクシー)
(一) 原告ときわタクシーが旅客運送を業とする会社であること、被告が昭和三六年四月一日から昭和三七年三月三一日までの事業年度(以下本件事業年度という)の原告の法人税について同三九年六月二九日付で原告ときわタクシーの所得金額を一九、九六四、七一二円と更正し、その頃、原告ときわタクシーに通知され、これに対し原告ときわタクシーは同三九年九月五日審査請求をなしたが、同年一〇月二二日棄却され、その頃原告ときわタクシーに通知されたことは当事者間に争いがない。
(二) 原告ときわタクシーの主張する本件事業年度における所得金額と被告主張のそれとの差は要するに原告広島タクシーから昭和三七年一月八日ごろタクシー二六台分の営業権の譲渡を受けたか否かの点にのみかかるのであるが、本件についてもすでに前記一の理由で述べた如く昭和三七年一月一〇日ごろ二六車輛分の営業権の無償譲渡が第二一号事件原告広島タクシーから原告ときわタクシーに対しなされたものと認められるから、原告ときわタクシーの本件事業年度において一台当り金一〇〇万円として二六車輛分計金二六〇〇万円の益金を加算して所得金額を更正した被告の処分は相当であると認める。
三、よつて原告広島タクシー、同ときわタクシーの被告に対する請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 加藤宏 岡田勝一郎 安原浩)
別表一~三<省略>